巻頭言

2019.03.01
巻頭言

2019/3/1 ベスト3月号 巻頭言を掲載しました

人事を尽くして天命を待つ
~座右の銘に学ぶ~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

私達は様々な悩みや迷いから免れることはできない。それらと上手に付き合っていきたいものだ……が、なかなか難しい。あれやこれや悪い結果を心配するあまり、今やるべきことにも手がつかない、結果、集中した準備ができず、失敗に終わるというようなことがありがちだ。

悩みや迷い、結果としての焦りなどに、どう対処するのがいいか?受験勉強からスポーツなどの場面で多くの人を襲う問いである。勝負を前に緊張のあまり眠られず、結果として万全の体調で試験や試合に臨むことができないということであってはならない。
先人の知恵の凝縮した言葉などにはそれらの悩みや迷いへの対処策が凝縮されている。合格体験記にも、しばしば、そうした知恵をうまく自分のものにした事例が紹介されている。それらの中から、自分の心に響くものを身近に置いて折に触れて味わううちに、おのずと自分自身の座右の銘となる。

私からは「人事を尽くして天命を待つ」を紹介してみたい。

南宋の儒学者胡寅(こいん)の「読史管見(とくしかんけん)」という書物を出典にした言葉だ。「自分の能力でできることをやり、その結果に対しては、人間のあずかり知らないところである天命に任せる」といった意味だ。
私事だが、闘病生活では、時として心ふさぎがちであったが、自分に今できる最善のことに集中しよう、その結果は運命のなせるところに従うしかない。クヨクヨしても始まらない。受け容れるところは受け容れ、しかし、自分としてできることには、全力投球する。それでいい。そう思うことはストレス解消にも有益だった。クヨクヨした悩みは焦りを誘うだけで、何らいいことはない。とにかく、自分にとっての、安心立命が一番……といった経験をした。
限られた命という問題は、生物の受け入れざるを得ないこと。闘病生活でこの問題との対座は避けられなかった。様々な知恵があろうが、私の経験からは、座禅での呼吸法は有益だった。ひたすら息使いに集中する。心身は連動しているということを実感できた。
地球や宇宙のこれまでの歩みや今後への指向は、その圧倒的な時空の規模を前に受け入れのよすがとなるのではないか。人間として対応可能な範囲である「人事」に集中することだと。やれることに集中して取り組めば、その結果に対しては淡々と受け入れられる。そうした心境になれることが大切だと思える。天命のなせるところである結果にはこだわらずに、最善を尽くそう……という心境になれる。結果がどうであれ、最善を尽くしさえすれば悔いはないという心境になりたいということだ。

ストレスへの対処は、それぞれ、自分にふさわしい方法を見つけていくしかない。何はともあれ、まずは、自分自身と正面から向かい合うことが肝要だ。

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