巻頭言

2020.05.01
巻頭言

ベスト5月号 巻頭言を掲載しました

毎日が奇跡の目覚めに感謝
~入院して気づいたこと~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 今月は少し趣向を変えて、個人的な話をしてみよう。
 健康な時には当たり前のことも、大病を患って、入院してみれば、違った視点から見える。毎朝目覚めることの、なんとありがたいことか。それだけで奇跡といえることだと気づいた。病院は、日常の諸々のわずらわしさをきれいに遮断し、自分と向かい合う時間をもたらしてくれる。
 闘病記を読んでみると、しばしば、病気に感謝しているという表現に出会う。自分に向かい合うきっかけとなったことをそのように表現しているのではなかろうか。私にとっては、命を考える機会となった。その一端を披れきしてみれば……以下のようになる。

 そもそも、生を恵まれて、ここに存在していること自体が、奇跡、まさに稀有のことなのだ…といった想いに圧倒された。
 命の不思議に気づいたら、宇宙の歴史などということにも、思いをはせるようになった。最近の研究成果によれば、おおよそ次のようになる。
 そもそもの始まり、ビッグバンが起き宇宙が誕生したのが、今から約138億年前。太陽と太陽系が誕生したのは約46億年前。地球で最初の生命が誕生したのは約38億年前。そこから様々な生命に枝分かれしていった。約6,500万年前、ネズミが木に登り、サルに進化した。樹上からサバンナに進出したのは約200万年前。私たちの祖先(ホモサピエンス)は約20万年前にアフリカで誕生し、約10万年前にアフリカを出て世界各地に広がった。日本にたどり着いたのは約4万年前。
 農耕を始めたのは約1万年前(1万2,000年前とも)。人間は長いこと自然の恵みをいただいて生きてきたのだった。農地に縛られ定住したのも1万年だけのこと。
 宇宙の歴史の物差しで考えれば、私たちの祖先が木に登ったのも、サバンナに降りたのも、まして、日本にたどり着いたのも、ごく最近の話になる。

 私たちの生は、単細胞の生命であったころから、延々とバトンを引き継いだ結果なのである。毎朝、目覚めるということは、それだけで奇跡そのもの。私たちは、感謝を忘れてはならない。今日という貴重な賜物を恵まれた奇跡に感謝して、お互い、精一杯生きなければならない。
 入院は、普段の生活を反省する絶好の機会を提供してくれるようだ。来し方行く末に思いをはせる良いきっかけをもらった。実際経験してみなければ容易には分からないだろうが、健康な皆さんにも、私の経験をお伝えすることで、参考にしてもらえれば幸いだ。

 終わりに、人間が今日の繁栄を得たのは、言葉を通じて意思疎通できたことによるそうだ。他の動物は、声を出すものの、人間のように複雑な内容の伝達はできない。私たちは、言葉を駆使して、人間となった。意思伝達の手段である言葉をしっかり身に付けたいものだ。人間を人間たらしめた基礎なのだから。そんな思いが湧いてきた。

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