巻頭言

2020.07.01
巻頭言

ベスト7月号 巻頭言を掲載しました

パンデミックに学ぶ危機管理の教訓
~警察官としての確認事項~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 危機管理は理屈ではない。絶えざる実戦にもまれ、磨き上げられていくものだ。この度のコロナ感染症パンデミックも、多くの苦い教訓を生んだ。警察も例外ではなく、危機管理のプロとして、謙虚に学ぶ姿勢を持つべきである。本稿は、第一線で頑張っている皆さんへ、いささかでも参考となればとの想いから供覧に付したい。

 第一に感じたことは、世界及び我が国の危機への備えの数々の不備であった。
 14世紀に流行し、欧州全人口の3割から6割が死亡したとされ、復興に1世紀を要したというペストはともかく、およそ100年前に流行し、1700万人以上(1億人に達した可能性も指摘されている。)が死亡したとされるスペイン風邪すら、遠く過去のこととして忘れ去られていた。危機管理の最大の問題点はこの私たちの忘却力である。
 近隣諸国で多くの死者を生じたSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)の流行の際、国内への波及を阻止し得た我が国は、感染症対応での危機感が薄れていた(対する韓国やシンガポールではその経験からPCR検査体制ができていた。)。我が国は意図的に感染者数を減じているのでは?との国際的な疑惑さえ生み、感染症対応への医療関係者の不足や病床不足も顕著であった。危機が去れば忘れることの得意な人間の、とりわけ我が国の国民性とも言うべき欠点は、声を大にして強調せざるを得ない。

 第二に、危機対応に大きく影響した、我が国の国民性を認識しておきたい。
 手洗いやマスク着用など、衛生観念の高さや衛生習慣の根付きは、この度の我が国において、感染拡大を食い止める最も大きな働きをしたといえるであろう。その反面、「我が国は大丈夫」といった過剰な期待が多大な隙を生じ、外出自粛要請などへの対応の遅れを生んだともいえよう。

 第三に、警察官としての教訓事項を羅列しておきたい。
① 危機想定は、初期段階で絶えず大きく構えること。その後の推移・状況によって縮小していく要領。
② 判断に当たっては、最悪事態を想定し、リスク計算をしたうえでなされるべきである。
③ あらゆる判断にリスクは避けられない。管理職は上になればなるほど判断に伴うリスクが大きくなる。判断への非難を耐え得る覚悟は、管理職たる資格ともいえる。

 私の経験的なアドバイスを簡潔に言えば、決断に伴うリスクが悔いのないものなのかということが重要である。後に非難されたとき、家族に対して恥じるところのない判断だと言えるか否か。

 昇任試験に想定される事例としては、兵庫県神戸西警察での署長・副署長参加の下での幹部歓迎会がある。パンデミックとの言葉も聞かれる3月28日、居酒屋で開催されたところ、署長など複数幹部の感染が確認される事態となり、異例の人事異動となった。通常であれば、人事異動後の慣例的な行事だったろう。
 あなたならどう判断するか?とってつけたような、「危機状況下、開催しない。」で、終わるような皮相な解答では評価されない。「なぜ?」という踏み込んだ考察が肝要だ。

 危機管理の専門家として、判断は最悪の状態を想定し、情勢分析に当たっては、各種リスクを想定して、対処法を考える。予想が外れるのは、基本的に気にしない。経験的に、後に予想分析が俎上に上がるのは、甘い想定が外れた場合なのだ。
 危機管理には、常に将来への鋭い想像力が求められる。将来への想像力は日常の訓練で養う必要がある。ドラえもんの4次元ポケットよろしく、羽ばたかせる想像力は大切にしたい。自由な発想、異なる視点、異なる意見を拒んではならない。努めて、自分にはない異質なものへの関心を高めようではないか。

 まだまだ、危機への対応は続く。第一線で頑張っている皆さんへ、心からのエールを贈りたい。

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