巻頭言

2021.09.01
巻頭言

ベスト9月号 巻頭言を掲載しました

住民のニーズに敏感に寄り添う警察活動
~新常態時代を生きる~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 ワクチン効果によって、ある程度の落ち着きを得たとしても、私たちは、新たな感染症を含めた様々な危機に備え、不安を感じつつ生きなければならない時代となった。

 警察官は、常に住民の心情に寄り添った活動に努めることが求められる。
 キーワードは新常態(新しい生活様式)。全世界の人々が、命が危険にさらされるという絶対的な不安の中での生活を覚悟せざるを得ない。このような心理状態では、人間はこれまでとは違う行動をとるであろうことから、新たな犯罪も増えることが予測される。
 安全と安心のプロとして、警察官の活動では、そうした住民の心情に寄り添う配慮が肝要だ。そうした視点に立ち、最近の犯罪動向から、本稿では再び警察活動の留意点を考察してみたい。しばらくは、新型コロナウイルス関連の出題に関して、全方向での備えが必要であろう。備えがあれば、答案においても、そうした心構えで常に考えているというアピールができるはずだ。

 新型コロナ対応に見られたように、命の危険を感じるという状況下での行動は、異常であり、とかく他人に対して非寛容になる。そして、それが新たな犯罪を呼ぶ背景となる。
 ヘイトクライムに似た「自粛警察」現象。一部で問題視された他県ナンバー車両に対する器物毀棄行為などはその典型。自宅にこもるという不自由な生活を強いられる中、求められる自粛に従わない人への正義の鉄槌のつもりもあったろう。誰しもが自粛疲れの状態だった。それが他人への非寛容さを生む。

 感染者に関する個人情報をネット上で拡散する行為も、類似の心理だろう。感染者が公共交通機関を利用したとされたニュースに、その人物探しが盛り上がりを見せた事案があった。これなどは、あたかも犯罪容疑者探しの様相を見せもした。
 ネット空間では、偽情報が異常なスピードで拡散する。そのため、早急な対応、毅然とした注意喚起が求められる。ネット空間における問題については、官民連携が不可欠であるから、民間人協力者を集めて組織化し力を借りやすくするなど、制度的配意が求められる。

 例によって、新手の詐欺も多発した。誰もが異常心理の不安の中、特に高齢者がターゲットとなる事案が発生した。東日本大震災などで被災地の空き家狙いの窃盗が続発したが、今回も休業中の飲食店などを狙った窃盗などが多発した。また、給付金をかたって個人情報等を引き出そうとする事案も報道された。人間の業というべきか、卑劣な犯罪は後を絶たない。悲しいかな、犯罪者とはそういうものなのだろう。
 だからこそ、警察官が頼りとされるということだ。犯人を検挙することが最大の防犯となる。そうした観点から、機敏な広報活動への配意もお願いしたい。

 環境が変われば、様々な分野で普段とは異なることが起きる。例えば、緊急事態宣言で走行車両が減ったにもかかわらず、都市部で死亡事故が増えた。普段は渋滞していた道路が大幅に空いたことで、走行スピードが上がったことが原因とみられ、警視庁などで緊急のスピード違反取締りを行ったことが報道された。

 アメリカであったか、マスク着用を注意されたことが原因となった拳銃発射事件の発生もあったという。さすがに、我が国では考えられないが、異常心理は恐ろしい。我が国での銃器・刀剣類の取締りが治安維持に与えるメリットについては、改めて指摘の要はないだろうが、これからも日常的な治安環境向上に対する地道な努力が大切であることを感じさせられた。
 こうした不安の時代だからこそ、警察官が安全安心の拠り所となるべく、一人ひとりが心を引き締めて勤務してもらいたい。不安を抱えた住民は、以前にも増して警察官の姿を求めるから、普段より皆さんへの注目度が高まる。交番での立番勤務一つにしても、ピシッと決めた皆さんの姿に、多くの住民が安心の想いを覚えること必定である。第一線勤務の皆さんを、多くの住民が注視していることを忘れないでいただきたい。
 また、今回の勤務で感じられた様々な改善策(空調などの改善や資材備蓄から感染防止知識など)は、改めてメモしておくべきだ。問われれば、いつでも具体的提案ができる備えが肝要だ。

巻頭言一覧ページに戻る