巻頭言

2022.01.01
巻頭言

ベスト1月号 巻頭言を掲載しました

警察を巡る内外情勢は激変
~過激派によるテロが懸念される国際環境~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 新年あけましておめでとうございます。
 皆さんご家族とおそろいで新たな一年を迎えられたことと思います。心からお祝い申し上げます。

 我が国にとっても、また治安を担当する警察にとっても、今年は厳しい決意の求められることが必至の1年です。その最大の原因は新型コロナ禍にあり、新しい生活方式など国民の意識変化が急激に進んでいます。更には、サイバー空間の犯罪利用が急速に増加し、国境を越えた犯罪への対応の遅れが大きな課題となっています。
 また、内外の急激な治安環境の変化への警察の対処が急務となっており、ますますグローバルな知見が求められています。今年の昇任試験には、こうした警察を取り巻く変化の認識及びそれに対応していく決意が欠かせません。つまり、そうした状況の理解や自己変革への具体的な決意が求められるということです。

 現在の国際関係における最大の変化は、アメリカが世界の警察官として担ってきたような、重しの役割を担う存在を失ったことです。中国との競争が一層深刻になる中、ゆとりがなくなったアメリカの内向き傾向がはっきりしたのです。
 象徴的だったのは、昨年のアフガニスタンからの米軍撤退、これによりテロ支援勢力としてアメリカが戦ってきたタリバンが20年ぶりに政権に復活することになりました。背景には、中東、アフリカをはじめ、各国での貧富の格差拡大傾向への不満の高まりがあり、若者の過激派への流入が懸念されたことがあります。過激派によるテロは、世界各国共通の現実的な懸念材料です。また、我が国の治安への懸念材料として、カンボジア、ミャンマーなどで犯罪集団の拠点化が進んでおり、国際犯罪増加リスクが飛躍的に高まっています。
 また、情報技術の革新・普及の結果、ネット犯罪対応がますます重みを増しています。犯罪に関して、国境がもはや意味を持たなくなっているのにもかかわらず、治安機関間の国際協力には様々な障害が根強く存在しており、問題が表面化しています。

 新たな年に臨む我が国の治安活動は、こうした国際環境の中で難しいかじ取りが求められることになります。言うまでもないことですが、新型コロナ第6波への備えも新年の大きな課題です。何はさておき、警察でのクラスター発生は避けなければなりません。全警察職員の一致したプロとしての取組への覚悟が欠かせません。

 新年度、警察庁にサイバー局が新設され、200人規模の専属部隊(関東管区警察局が全国を管轄)を中心にサイバー空間の脅威に対処することになります。そのほか、警察業務のデジタル化などのためにも、職員一人ひとりの意識改革及び人材の育成が不可欠となっています。特に交通安全や生活安全分野でのデジタル活用は、警察活動を新たなステージへと変えていくことでしょう。
 環境問題やAI化の流れも急速です。警察活動での準備も欠かせません。例えば、自動運転での事故を巡っても、責任の在り方や捜査関連での変化への備えが必須になるでしょう。ますます進展する高齢社会化に伴い、免許の自主返納などの交通事故防止対策や独居老人に対する特殊犯罪防止など各種対策についても、積極的な対応が必須です。若者人口が減少する中、人材確保対策もますます重要になります。
 また、首都直下型地震や富士山噴火など様々な災害リスクも必ずやってくるとの認識の下、備えを怠れないことは言うまでもありません。

 最後に、皆さんにとって、今年目指すところの目標が見事成就することを祈念しています。本誌スタッフ一同、最良の同伴者たるべく決意を新たに全力投入で応援したいと思います。よろしくお願いいたします。

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