巻頭言

2023.06.01
巻頭言

ベスト2023年6月号 巻頭言を掲載しました

思い出される事件 その1
~ケネディ米大統領暗殺~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 今年、80歳の誕生日を迎えた。節目の“傘寿”ということで子どもたちが祝ってくれた。80年といっても、本当に、あっという間に過ぎ去ったようにも感じる。まさに“光陰矢の如し”。一日一日を充実させて生きることの積み重ね、この大切さをひしひしと感じている。現役の皆さんにも、この気持ちを共有していただきたい。
 改めて特別の感慨があるわけでもない。それでもそろそろ思い出なども書いておくべきか、ということで、80年を振り返って、治安に関連したものをいくつか披歴させていただきたい。

 第一話はケネディ米大統領暗殺(1963年11月22日)。第一報は、東京大学駒場寮の布団の中で耳にした。何を叫んでいるのか?

 「ケネディがやられた。」

 駒場寮は大学構内にある学生寮、旧制第一高等学校以来の古色ぷんぷんとした大型の寮(三棟)だった。十人ほどの学生が何らかのクラブ活動を掲げ、寝室と勉強室の二部屋一対として使用していた。昨夜の飲み会の故もあって、ベッドに寝転んだままで、誰かの叫び声を聞いた。
 印象深いのは、初めて暗殺現場の生の映像を見たことだった。くしくも、これは、日米間初の衛星生中継番組でもあった。それ以前に見てきた新聞の写真とは違って、動画で伝えられる暗殺シーンのインパクトは強烈だった。
 繰り返される、ダラス市の暗殺現場の様々な映像。ライフル銃による暗殺の切迫感が生で伝わった。しかも、狙撃犯人として、2時間後に逮捕されたオズワルド容疑者が、2日後、移送途中に警察署内で暗殺されるという信じられない展開に、銃の氾濫する米社会の治安維持の様相の違いを強く感じさせられた。
 同時に米国警察の抱える深刻な問題性(率直に言って、警察官の資質の悪さ)も暗示的に感じられた。

 日米の銃規制の在り方の違いのもたらす、暗殺事件とそれに対する治安機関の対応の違いは大きい。アメリカではライフル銃やピストルなど銃器そのものは日常的に市中に溢れている。犯罪者が銃を所持していることは空気や水の様に当たり前のことなのだ。
 警察官などの勤務前提においても犯罪者の銃所持は当然のこと。後にアメリカで視察した要人警護担当のシークレットサービスの訓練施設では、街並みを歩いていると二階の窓などから銃撃されて対応するといったリアルな設定だった。しかも、時に窓からのぞき込んでいるのが赤ん坊に授乳している女性だったりするなど、状況を瞬時に観察判断しての応射でなければならない。日米の違いは歴然と感じられ、納得した。そういう社会での銃器犯罪の防止は難しい。我が国とは別世界という感があった。

 ちなみに、知り合いのアメリカ人、自宅に銃器を所持しているのは決して珍しいことではない。気晴らしに銃器の射撃場に行ってバンバンやってくるとスッキリという人すらいる。毎年の様に伝えられる学校や教会などでの乱射事件。犠牲者数十人というのにも、またか、と感じさせられる“慣れ”にも驚く。
 日本では何としても銃の規制の厳格化を維持しなければならない。あらゆる対策で銃のない社会を維持してもらいたい。我が国で定着している“見せる警護”なども、アメリカのスタイルの応用ともいえる。それにしてもムキムキの筋肉マン風のSSが取り囲むシーンは我が国との違いを感じさせられる。

 安倍元総理暗殺のショックは大きかった。要人警護のもたらす影響の大きさをかみしめ、警護への取組の改善を願いたい。多くの事象で言えることだが、日常の情報収集活動への取組の重要性は、強調しすぎるということはない。ネット情報の収集活用なども含め、更なる情報収集の高度化への取組をしてもらいたい。

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