巻頭言

2024.04.01
巻頭言

ベスト2024年4月号 巻頭言を掲載しました

昇任することの意味
~階級ごとの評価ポイントの違いを理解しよう~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 巡査部長への昇任は、いわば警察官としての「ひとり立ち」という意味がある。警察学校で基礎を習い、現場での実習を経験しての免許皆伝。一人前の警察官と認定されるといった意味合いであり、仮免から本免許に切り替わるようなものである。
 後輩から見て、立派な模範となる心構えが身についたか。一人での執行務が任せられるか。そうしたことが昇任試験合否の尺度となる。
 したがって、受験の準備は、基本的には、警察学校で教わった基本にある。教科書やノートでの警察学校での学びを、第一線警察署での勤務経験に照らして深く理解するということ。弊社の執筆陣は、そういう観点から読者にとって最も効率のよい準備ができるよう常に心掛けている。
 この段階での注意点は、疑問のあった点は、放置することなく、警察学校の教科書に立ち返ることだ。根拠法令に立ち返って、腹落ちするまで復習すること。「苦手は捨てて、点を稼ごう」などと指南するテクニック本に惑わされてはならない。基本に立ち返って、完全な理解をすること、その心掛けに尽きる。したがって、法律における苦手分野を完全に理解して、自信のあるひとり立ちを目指すという心掛けで臨まなければならない。

 警部補は、これに大分異なる視点が加わる。ひと言で言えば、部下を束ねるというステージに一歩踏みだすことになる。自分で仕事をするのと違って、数人単位での仕事が任せられるかという視点が加わる。
 したがって、巡査部長と警部補ではだいぶ違った視点での評価になる。警部補から組織としての成果が比重を増す。一人では仕事ができても、数人の単位でみれば望まれる成果が出ていないということがままある。場合によっては一人ひとりの効率が落ちている場合もある。それは多くの場合、チームを束ねる人の影響であることが多い。
 巡査部長昇任試験と警部補昇任試験の違いをしっかりと理解した準備が求められる。
 そこのところを考えることから警部補昇任試験の準備が始まる。そういう視点があるかどうかが合否を分けることになる。
 特に若い段階での警部補昇任を目指す場合、さらに上級の昇任にふさわしい資質の有無にも試験官は着目する。端的に言えば、警部や警視という上級幹部の候補者かどうかという試験官の目があるということだ。面接や論文(記述)での採点にも重点が置かれるのは当然なのである。

 これらは、幹部としての資質と言い換えてもいい。ではそれはどういうことなのか?
 常識の有無、人間としての総体としての評価ということだ。しかし、言うはやすくその内容となると曖昧な要素がある。例えば、人と話す際の態度印象から、話す内容の安定的なことなどまで多岐にわたる。まさにAIではできない「人間の人を見る能力」にかかっている分野といえるだろう。法律についていえば、自分一人で分かっているだけでなく、部下に教えることのできる能力。部下との関係を構築できる能力といったことになる。
 いきなりこれらが備わっているというのではなく、少なくともそういうことへの配慮のある姿勢は必要だ。自分だけでなく、周囲への関心のあることが欠かせない。

 いわゆる常識問題、法律だけでない様々な話題への関心を持った準備が求められる。さらに上級の警部・警視昇任試験となると、他の部門との連携、部外との関係という要素が増していく。

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