巻頭言

2025.07.01
巻頭言

ベスト2025年7月号 巻頭言を掲載しました

情熱あふれる“やる気”を伝えよう
~幹部昇任試験のキモは管理論文だ~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 警部昇任試験を巡査部長昇任試験や警部補昇任試験と比べると、大きな違いがある。ズバリ言えば、組織管理者としての資質の有無、その見極めが大きな比重を占める。それを理解した対応をしなければならないのである。
 また、将来を期待される若手にとっては、警部補昇任試験であっても、同様の趣旨を踏まえて回答できているか否かが大きな評価の差につながることを付記しておきたい。本稿では、長年の経験を基に、本音をそのまま皆さんに届けてみたい。

 実は、知識や技能面では、誰が昇任しても五十歩百歩。また、立場が人を育てるというように、多少劣っていたとしても、実際にその任に着いたならば、必要な知識や技能を後付けすることができるという側面もある。だから、その分野の多少の出来不出来は、思うほど重要ではない(もちろんいいに越したことはない)。
 知識や技能に関しては、何よりも、前向きに取り組む姿勢が欠かせない。そして、細かい知識より、基本にある精神(考え方)の理解が大切である。端的に言えば、法律などが何のために設けられているかという点の理解。何事も、その根幹や背景について、あと一歩極めようという姿勢を持つことが重要だ。

 組織管理者の資質について、昇任試験において判定者が見ようとしているのは、ズバリ、部下の力を引き出し、自ら先頭に立って一丸となって出撃できるか、その姿勢や力量の有無である。したがって、管理論文対策としては、短い紙幅の中にそれをいかに落とし込み、熱い思いを伝えるか、その準備が重要になる。巧拙を超えた魂の声が求められるのであって、出回っているような模範解答にこだわるのは愚策である。本誌がここまで言い切ると、心配する向きもあるかもしれないが…。
 自分の胸にたぎる心の声、本心を、情熱込めて書くことが重要だ。座右の銘や心に残る教え、尊敬する人物、愛読書に触れることなども有効である。いざというとき、何を書くかを事前に準備しておきたい。
 まず、何を伝えたいのか、そこをしっかり考える。その伝えたい思いを、真正面から率直に自分の言葉で書いてみる。自分の言葉ということがミソ。事前に書いてみて、読み返す。その書き方で、思いが伝わるだろうか。書き直すのもいい、むしろ思いを深めることにもなる。
 警察官になった日の感慨、警察学校の門をくぐった日の決心、志。警部になってどうしたいのか。今年合格したら、まず何を実現したいのか。家族への思いなども率直に書いていい。
 思い描く尊敬する先輩の姿。その後を追って一歩でも近づくことを目標にしてきたこと、そのための日々の積み重ね。
 今の現場の問題点。何が問題なのか、どうしてそうなっているのか、それをどう改めていきたいのか。できるだけ具体的に、自分で経験してきたことを踏まえて考えたい。警察不祥事の事例などを引いての考察などもいいだろう。
 現場を占める平成生まれの気質。年長世代である上級幹部が知りたいと思うのはここ。できるだけ具体的な内容でありたい。自分の経験したことを自分の文章で書くことだ。それを自らがやり遂げたいという思い・決意。警部に昇任したいという思い。それらを率直にぶつけるのである。

 昨今、ウクライナ侵攻の長期化、米中の分断など国際情勢の不確定要素が、多くの国民に意識されている。国内治安に関しては、警護体制の強化をはじめSNS利用の犯罪、増加傾向の特殊詐欺など、「安全安心」に係る国民の心理が大きく変わってきている。必ずしも鮮明ではないが、多くの人の「先行きへの潜在的な不安感」が、不気味に膨らみつつある。すなわち、警察への期待感が膨らんでいるというわけだ。現場幹部には、これに応えていく気概が重要となっている。
 管理論文の結びには、国民の期待に応える強い決意表明を書くべきだ。「ぜひ私にやらせてほしい」と。その任務を担うことが、警察官になった日以来の率直な目標であることを記したい。第一線を担う信念。蟻の一穴の教えなど。心情を込めた座右の銘も用意しておきたい。
 何よりも自信を持って臨むことが欠かせない。幹部にはそうした強さが求められている。

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