巻頭言

2025.08.01
巻頭言

ベスト2025年8月号 巻頭言を掲載しました

捜査指揮における留まる勇気
~管理職の最大の心得~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 警察は強権を行使する。悪に対して正義を貫くには強い実力行使が欠かせない。逮捕する権限だけでなく、時には拳銃を使うことも許されている。そうであるだけに、強権行使には最大限の抑制が求められる。
 これは全警察官に共通する心得であるが、組織での行動にあっては、管理職にその判断が委ねられることが多い。上級幹部になればなるほどその役割が増す。
 では、具体的にはどういう点が重要なのか、考察を進めたい。

 捜査指揮においては、ズバリ「白にする」捜査の意識が重要である。警察官は、犯人の割り出しや証拠固めなど、どうしても対象を「黒くする」捜査に目が行く。そのため、見立てを固めることに終始しがちになる。そうした雰囲気の中、捜査指揮官には、対象を「白にする」視点が欠かせない。見立てが誤っている可能性を証拠によって潰すことは、「黒くする」捜査以上に重要だ。
 理屈では、誰しも否定しない。しかし、実際に実行することは結構難しい。集団の勢いも強い中、あくまでも冷静に対応しなければならないのだ。精神力の強さが指揮官には求められる。

 警察の権限行使には、抑制的態度が求められる。それは謙抑主義の原則にも通じる。強権を行使した方が効率の良い場合であっても、他に選択できる手法があれば、可能な限り強権を行使することなく対応すべきとされる。これも幹部が心得るべきこととして重要だ。
 警察官には、いつ何時であっても、自らを省みるという心得が欠かせない。これは上級幹部になればなるほど重要になる。そうでありながら、その実行は言うほど容易なことではない。得てして、弱腰とみられたりもする。場合によっては「やる気がない」、「頼りない」、とも思われかねない。そうであるだけに、その実行が思いのほか難しい心得でもある。

 警部・警視級になれば、特にそこが求められる。もちろん、警部補においても、その資質があることは有利に働く。幹部昇任における「隠れた注目点」であることを心得ておくと良い。
昇任試験では、表面的なイメージと実際の違いという点も評価対象となることに留意しよう。見識、人間性といったように、数字には表れないもので評価されることもある。

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