ベスト2025年11月号 巻頭言を掲載しました
捜査指揮における「とどまる勇気」
~管理職の最大の心得~
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株式会社日本公法 代表取締役社長 麗澤大学名誉教授 元中国管区警察局長 元警察庁教養課長 元警察大学校教官教養部専門講師 大貫 啓行 |
警察は強権を行使する。悪に対して正義を貫くには強い実力行使が欠かせない。逮捕する権限はもちろんのこと、拳銃を使うことすらある。
そうであるだけに、強権行使には最大限の抑制が求められる。全警察官に共通した心得だ。しかし、組織での行動にあっては、管理職にその判断が委ねられることが多い。上級幹部になればなるほど、その役割が増す。
抽象論はここまで。捜査指揮において具体的にはどういう点が重要なのか、という考察を進めたい。
ズバリ言えば、「白にする」捜査ができるか、である。警察官は、犯人の割り出しから証拠固めまで、どうしても「黒くする」捜査に目が行く。見立ての固めに走るものだ。
そうした雰囲気の中、捜査指揮官には、「白にする」視点が欠かせない。見立てが誤っている可能性を証拠によってつぶすことは、「黒くする」捜査以上に重要だ。
この理屈については、誰もが否定しないものの、実行することは結構難しい。集団の勢いも強い中で、あくまでも冷静に対応しなければならない。その精神力の強さが指揮官には求められる。
警察の権限行使には、抑制的態度が求められる。謙抑主義の原則。強権を行使することが認められる状況で、行使した方が効率はいいとしても、他に選択できる手法があれば、あえて警察は一歩引いてそちらを選択するということだ。
これも幹部が心得るべきこととして重要である。何事も、自らを省みる心得が欠かせない。これは上級幹部になればなるほど重要になる。繰り返しになるが、その実行はいうほど容易なことではない。得てして、弱腰とみられがちになるし、場合によってはやる気がない、頼りない、とも思われかねない。そうであるだけに、言うより思いのほか難しい心得でもある。
警部・警視級になれば、当然のようにそこが求められる。警部補であっても、その資質があることは有利に働く。幹部昇任における隠れた注目点だと心得ておこう。
昇任試験においては、いわゆる表面的なイメージと実際の違いという点も問われる。見識、人間性といったように表現されることもある。面接試験はもちろんのこと、論文試験でも、このような人格の深さまでアピールできるかが、思った以上に重要である。



