巻頭言

2025.05.01
巻頭言

ベスト2025年5月号 巻頭言を掲載しました

訓示などを昇任試験対策でどう受け止めるべきか?
~重点の全体的な理解に有効~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 警察では組織幹部、とりわけトップの訓示が多数存在している。そこで昇任試験準備という目的でのアドバイスを率直に披露したい。
 率直に言って、訓示は昇任試験対策として暗記する対象ではない。多くは各部門の重点事項を並べた紋切り型であり、中には総花的とさえいえるものもある。大体は各部門が提出した案を継ぎはぎしているわけだ。しかし、それだけに全体的な重要事項、今年の全体的な視野に立った重点課題は何か、というバランスのとれた理解には最も有益となる。各部門の中で、その年その時点での重要さの順番を確認しておく。これは、記述問題の範囲を示していると受け止めることもできるのである。
 特に面接などでは、自分の仕事との関連に注意して準備することがポイントとなる。訓示にある事項を自分の仕事に引き寄せて、どういう点に注意し、毎日の勤務の中でどう取り組むかといった決意表明ができると良い。抽象論ではなく具体的に話すことが高得点となる。そういう視点で準備しておくと良い。
 また、実は、訓示という紋切り型の中にも、トップの想いの籠った部分があり、様々な分野で広く活かすことができるフレーズであることが多いため、そこに注目するのをお薦めする。定型にはまらない談話などにトップの本音が現れることが多い。
 例えば、迫田警視総監は、1月の就任に際しての記者取材に、若い時代に、先輩から教えられた言葉を紹介している。それは「悲観的に準備し、楽観的に対処せよ」という、警備対処に対する幹部の基本的姿勢を示したものだ。若い時の厳しい警備事案の経験に裏付けられた率直な思いと受け止めた。準備段階で最悪の事態に備える。楽観論でなくて悲観論こそがそれを可能にする。しかし、いざ現場に立った時は自信を持って臨むということ。特に幹部は現場でちゅうちょしたり迷ったりすることがあってはならない。それが楽観的に対処するということだ。実はこれは、危機管理における幹部の心掛けとして警察の古くから引き継がれてきた教訓の1つである。代々引き継がれる教えの類は多数あるが、迫田総監がとりわけ自分のものとして受け止めてきたものだろう。
 各自、先輩に教えられた心得があるだろう。それをどういう形で書くのか。そういう準備を二、三しておくことを勧める。そうした類の古典的教えには、現場を大切にせよという現場百辺、事件現場に事件発生時間に立ってみることの大切さのほか、被害者、弱者の立場に立って考えることの大切さも含まれよう。
 緒方前警視総監は、令和7年年頭訓示で以下の想いを語っている。かつて教えを受けたベテランの1人が、「我々が解明できる事実は真実の一部にすぎない」「真実の全てだと過信したときに間違いが起きる」と言ったことを紹介したうえで、「自らを万能と過信し、殊更に大義を振りかざし、目的を手段の言い訳にすることないよう、ともに肝に銘じたい」と心境を吐露している。近年、再審無罪判決が続き、警察の捜査に関して厳しい司法判断を受けたことに対する緒方前総監の率直な思いを各自受け止めてほしい。
 たじろぎ立ちすくむことは治安構造が社会に負の影響を及ぼすことになるという強い危機感。謙虚の中に熱烈な任務遂行への責務に対する自覚を求めている。これらトップの想いを各自どう受け止めたのか?それを昇任試験という場で披歴するということをお勧めしたい。好印象、高得点、そして合格につながると確信している。

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