巻頭言

2023.01.01
巻頭言

ベスト2023年1月号 巻頭言を掲載しました

警察への期待はますます高まっている
~内外の波乱に備える決意~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 新年あけましておめでとうございます。
 皆さん、ご家族お揃いで新たな一年を迎えられたことと思います。心からお祝い申し上げます。

 実は、本号は本誌にとって記念すべき1,000号に当たります。第1号は1971年、半世紀を超える53年前ということになります。ちなみに、私にとっては、警察官として歩みを始めて間もない時期。本誌の歩みは、警察官としての歩みに重なるという縁を感じます。
 最近は、現役の皆さんに昇任に対する思いに変化があるという話をよく耳にします。昇任しても責任が増すだけ、あるいは昇任試験の成績よりは人事考査が大きいので勉強する気が起きない、などなど。ですが、昇任試験に備えての勉強は、実は警察官にとって欠かすことのできない基礎作りにあるのです。その為に昇任試験という形での実力涵養なのです。そこのところをしっかり理解してかからなければなりません。
 本誌は、最も効率よく勉強に伴走することを目指してまいりました。そこを評価いただいた結果、1,000号を迎えられたということを大変うれしく思うところです。
 社員一同、ますます精進いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、2023年が始まりました。
 我が国にとっても、また治安を担当する警察にとっても、今年は極めて厳しい年となるように思います。その最大の原因は、ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、国際秩序の脆弱性が様々な面で顕在化することです。世界的な景気の落ち込みから、長期低迷する我が国の経済への展望も極めて厳しいとみられており、治安へ深刻な影響があることを覚悟せざるを得ません。

 少子高齢化が世界的に加速している昨今、中国は、早ければ今年にも人口減少に転じる可能性があるとされています。このことから、中長期的に見た中国の国力は今がピークであるということができ、中国では、悲願である「偉大な中華復興(台湾統一)」をかなえるのは今のうちだ、という焦りが生まれる可能性があります。強権独裁体制を強める国家がトップの判断次第で突然暴走しかねないことは、ロシアのウクライナへの侵攻でみたとおりです。米中の対立関係の先鋭化は、我が国を取り巻く国際的危機管理の根底にあると認識しておかなければなりません。
 我が国についても、2021年の出生数が調査開始以来の過去最少を更新したように、少子高齢化が進んでいます。そのため、免許の自主返納などの交通事故防止対策や高齢者独居老人へ向けた特殊犯罪防止など各種対策について、積極的に動くことが求められ、また、若者人口の減少する中で、人材確保対策がますます重要になっています。

 もう一度グローバルな視点に戻せば、情報技術の革新・普及の結果、世界的にネット犯罪対応が益々重みを帯びてきています。しかし、犯罪において国境が急速に意味を持たなくなってきていることに比べ、治安機関間の国際協力には、様々な障害が根強く存在しています。新たな年に臨む我が国の治安活動には、こうした国際環境の中で難しいかじ取りが求められます。
 また、環境問題やAI化の流れも急速です。警察活動での準備は欠かせません。自動運転での事故ひとつをとっても、各国それぞれ責任の在り方や捜査手続等に関する問題が生じると考えられ、それに対する備えが必須になるでしょう。

 このほか、我が国は、最も近い地理的位置にあることからも、核やミサイルを中心とした軍事力に偏っての体制維持に躍起となっている北朝鮮の深刻な影響から免れることはできません。世界的に注目される広島サミットでの要人警護など、警察が総力を挙げて取り組む事案も迫っています。また、南海巨大地震、首都直下型地震や富士山噴火など様々な災害リスクも必ずやってくるとの認識の下、備えを怠れないことは言うまでもありません。

 正月早々ではありますが、こうした内外の緊迫した環境は我が国の治安基盤を揺るがすため、警察の対処はますます急務となっていくことが予想されます。警察としては、広い視野に立ったグローバルな視点が求められることになるでしょう。
今年の昇任試験では、このような警察を取り巻く状況の変化への理解、それがもたらすものへの対応策が欠かせません。また、自己変革への具体的な決意も求められます。

 最後に、皆さんにとって目指すところの目標が、見事成就することを祈念しています。本誌スタッフ一同、最良の同伴者たるべく、決意を新たに全力で応援したいと思います。よろしくお願いいたします。

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