巻頭言

2023.04.01
巻頭言

ベスト2023年4月号 巻頭言を掲載しました

国民的英雄国枝慎吾さんに学ぶ
~毎日の積み重ね~

株式会社日本公法 代表取締役社長
麗澤大学名誉教授
元中国管区警察局長
元警察庁教養課長
元警察大学校教官教養部専門講師
大貫 啓行

 車いすテニス界の絶対的王者として長年世界に君臨し、2023年1月の引退表明に当たって国民栄誉賞を授与された国枝慎吾さんの偉業は、誰しもが認める所だろう。心からの祝意と敬意を贈りたい。謙虚さや、爽やかさへ好印象を抱く人は多いだろう。

 国枝さんは、以前、私の勤務した麗澤大学で職員として働いていた。彼の名前は日本を代表する車いす選手として徐々に有名になりつつあったが、今思えば、2009年に企業(ユニクロ)からのスポンサー支援が得られる前は、経済的に大変であっただろう。パラスポーツの置かれた環境の厳しさは現在でも指摘されるが、当時は格段に厳しかった。
 麗澤大学は、卒業生だった縁から彼を職員として採用、応援していたのであるが(付属高校経由の同大学進学生ということで、麗澤一環教育の代表といえる存在、なお、奥さんも同級生)、有名選手にありがちな、名ばかりの勤務というものではなかった。彼は勤務時間内には大学職員としての職務をちゃんと務めており、練習は、毎日出勤前と勤務後の夕方に欠かさず行っていたのである。
 大学生時代から近所のテニススクールに通っていて、朝練では指導者が現れる前に全身から湯気が出るほどのウォーミングアップをしていたそうだ。誰しもが驚くような集中力であるが、その後にある大学の授業にもまじめに取り組み、先生方の評価も高かった。
 どんなに困難な状況下にあっても、日々の授業、練習、仕事などへ誠実に取り組む、その姿勢こそが、彼を誰しもが感動する高みに導いたのではないか。

 「最高のテニス人生」、「十分やり切った」、引退会見での彼の言葉は、多くの人に清々しさ、人間性の高さを感じさせた。世界ランク1位での引退は格好をつけすぎだとの声を意識して、「お許しを願いたい」と発言したことにも、品性の良さがにじみ出ている。
 パラスポーツへの評価・理解を向上させたいとの決意表明では、パイオニアとしての志の高さが随所に感じられた。個人の域を大きく超えた、他者への思いやりに溢れる志の高潔さも、彼を磨いた要素かと思う。
試合では「俺は最強だ」と書いたものをラケットに張り付け、自らを鼓舞した。さらには、試合で迷いを排除して自らを鼓舞するため、あえて試合前や人前でも「最強だ」と公言したという。

 生身の人間、誰しも弱みもあるだろう。重要なのは、それをどう乗り越えるのかということ。真剣にあるがままの自分を見つめ、唯一の存在である自分にもっとも有効な手段を見つけること。
 できない言い訳は、どこにでも転がっている。何事も頑張るのはしんどい。逃げたくもなる。その中で自分を見つめ、最も合う方法で自己コントロールできた人が高みに登ることができる。自分を知る深さにおいて、自分に勝る存在はない。結局は自分との勝負なのだ。

 昇任試験勉強も例外ではない。自己コントロール勝負。国枝さんはそんな道理を教えてくれている。

巻頭言一覧ページに戻る